代理出産が難しい日本の法律の現状|親子関係や法改正の動向を解説

代理出産は、日本の法律で明確に禁止されているわけではないものの、日本産科婦人科学会は倫理的な問題を理由に否定的な立場を取っています。そのため、日本国内で代理出産を実施することは難しいのが現状。
この記事では、日本の現行法の課題と2025年に提出された新法案の動向、さらに代理出産に関する国際的な状況についても解説し、今後の選択肢を考えるための視点を提供します。

日本における代理出産の法的課題

日本では代理出産に関する明確な法律がないため、親子関係や倫理的な問題が課題となっています。

法整備の遅れ


生殖補助医療技術の進展に対し、法整備は追いついていないのが現状です。
2020年12月に「生殖補助医療法」が成立しましたが、この法律は第三者からの精子・卵子の提供によって生まれた子の親子関係を定めることに主眼が置かれており、代理出産については規制の対象外とされました。法案審議の過程でも、代理出産の規制は盛り込まれていませんでした。

2025年2月には、第三者の精子・卵子・胚を用いた「特定生殖補助医療」の規制を目的とした新たな法案が参議院に提出されました。この法案は、主に提供配偶子を用いた生殖補助医療に関して、生まれた子の「出自を知る権利」の保障、ドナー情報の管理体制、実施医療機関の認定制、あっせん業者の許可制、そして商業的取引の禁止(金銭授受の禁止)などを定めることを目指しています。
加えて、代理出産を禁止する内容を含んでおり、依頼者、斡旋者、実施者に対する罰則や、日本国外で行われた代理出産への関与(国外犯規定)も規制対象としています

法案の具体的な条文や解釈については、一部異なる見解も示唆されており、また国会での審議を経て内容が変更される可能性もあるため、最終的な成立内容とその影響については、今後の動向を注視する必要があります。(2025年4月時点)

親子関係の問題


日本の民法では、母子関係は「分娩の事実」によって決まると解釈されています そのため、代理出産においては、実際に子どもを出産した代理母が法律上の母親とみなされます。たとえ依頼者夫婦の受精卵を用いた場合であっても、遺伝的な繋がりに関わらず、分娩した代理母が戸籍上の母となります。

この原則は、2007年の最高裁判所の決定によって再確認されました。タレントの向井亜紀さん夫妻が、アメリカで代理母出産により得た双子の出生届を品川区に提出したものの受理されず、これを不服として申し立てた事案です。
最高裁は、「自己の卵子を用いたとしても、自ら懐胎・出産していない女性と出生した子との間には、母子関係の成立を認めることはできない」とし、出産した代理母が法律上の母親であるとの判断を下しました。
この判決は、現行法の枠組みでは出産という事実が母子関係を決定づけるという解釈を維持し、新たな生殖技術に対応するための法改正の必要性を司法が立法府に促した形となりました。

このため、たとえ海外で適法に代理出産を行い、依頼者夫婦の遺伝子を受け継いだ子どもが生まれたとしても、日本国内で出生届がそのまま受理されない可能性があります。

では、依頼者夫婦が法的な親子関係を確立するにはどうすればよいのでしょうか。まず、父親については、法律上の婚姻関係にない女性(この場合は代理母)から生まれた子(非嫡出子)となるため、父親が「認知」の手続きを行うことで法律上の父子関係が成立します。

一方、母親については、出産していないため、法律上の母子関係は自動的には成立しません。依頼した妻が法律上の母親となるためには、家庭裁判所に「特別養子縁組」の申立てを行い、審判を得る必要があります。
特別養子縁組が認められると、代理母との法律上の親子関係は完全に消滅し、依頼した妻(及び夫)が戸籍上も法律上も唯一の親となります。(詳しくは後述しています。)

倫理的な問題


代理出産は、法的な課題だけでなく、深刻な倫理的問題もはらんでいます。

第一に、代理出産は女性の身体を「子を産むための手段」として利用する側面があり、人間の尊厳を損なうのではないかという批判があります。代理母が妊娠・出産に伴う身体的リスクや精神的負担を負うことへの配慮も不可欠です。
医師の立場からも、代理母が負うリスクに加担することへの倫理的な葛藤が存在しているのが事実です。

第二に、生まれてくる子どもの福祉(権利や最善の利益)をどう保障するかが大きな問題です。代理出産で生まれたという事実を知った子どもが抱える可能性のある心理的な葛藤や、複雑な家族関係 、国際的な代理出産の場合には国籍取得の問題 など、子どもの立場からの懸念も多くあります。

第三に、契約上のトラブルのリスクも指摘されています。例えば、代理母が出産後に子どもを引き渡すことを拒否するケース や、逆に、生まれた子どもに障害があった場合などに依頼者夫婦が引き取りを拒否するケースが、主に海外の事例として報告されています。

これらの倫理的な問題に対する社会的な合意形成は、日本ではまだなされていません。日本産科婦人科学会のような専門家団体が示すガイドラインが、法律がない中での事実上の規制力を持っていますが 、あくまで学会内の自主規制であり、法的な強制力はありません。

このように、代理出産をめぐる議論は続いていますが、法整備も社会的合意も進展が見られないのが日本の現状です。

代理出産におけるホストマザーとサロゲートマザーの違いとは


代理出産には、大きく分けて「ホストマザー型」と「サロゲートマザー型」の2種類があります。

ホストマザー型とは


依頼者夫婦の精子と卵子を用いて体外受精を行い、その結果できた受精卵を代理母の子宮に移植する方法です。この場合、生まれてくる子どもは遺伝的には100%依頼者夫婦の子どもであり、代理母との遺伝的な繋がりはありません。

この方法のメリットとして、子どもが遺伝的に依頼者夫婦の実子であるため、血縁に関する問題が少ないと考えられます。
また、代理母自身の卵子を使用しないため、出産後に代理母が親権を主張するなどのトラブルは、後述するサロゲートマザー型に比べて少ない傾向にあるとされます。

サロゲートマザー型とは


依頼者の夫の精子を、代理母に人工授精する方法です。この場合、代理母自身の卵子が使われるため、生まれてくる子どもは、遺伝的には代理母と依頼者の夫の子どもとなります。依頼者の妻との遺伝的な繋がりはありません。

この方法は、代理母が遺伝的な母親でもあるため、親子関係がより複雑になります。出産後に代理母が子どもへの愛着などから親権を主張し、引き渡しを拒否するといったトラブルが発生するリスクが、ホストマザー型よりも高いとされています。
このような背景から、「古典的代理母」とも呼ばれるこの方法は、現在、代理出産を合法としている国や地域の中でも禁止されているか、あるいは推奨されていないことが多いです。

特別養子縁組で親子関係を確立できる


前述の通り、日本国内の法律では、代理出産によって生まれた子どもは、出産した代理母の子どもとして扱われます。そのため、依頼した夫婦(特に妻)が法律上の親となるためには、「特別養子縁組」の手続きを経る必要があります。

普通養子縁組との違い


養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の二種類があります。普通養子縁組の場合、養子は養親の戸籍に入りますが、実親(代理出産の場合は代理母)との法律上の親子関係も存続します。
一方、特別養子縁組は、実親との法的な親子関係を完全に断ち切り、養親との間に実の子と同様の安定した親子関係を築くことを目的としています。このため、代理出産で生まれた子どもを依頼者夫婦の実子と同等の法的地位に置くためには、特別養子縁組が選択されます。

特別養子縁組の要件

特別養子縁組を成立させるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。

  • 養子となる子の年齢: 原則として、家庭裁判所への審判申立時に15歳未満である必要があります。これは2020年4月の民法改正により、従来の原則6歳未満から引き上げられました。
    • 例外として、①子どもが15歳に達する前から引き続き養親候補者に監護されており、かつ②やむを得ない事由により15歳までに申し立てができなかった場合には、15歳以上18歳未満でも申し立てが可能です。
    • ただし、いずれの場合も、審判確定時に子どもが18歳に達していると縁組は成立しません。
    • また、養子となる子が15歳に達している場合には、本人の同意が必要です。
  • 養親の要件:養親となる者は配偶者のいる者(夫婦)であり、夫婦共同で縁組をする必要があります。年齢については、夫婦の一方が25歳以上、他方が20歳以上である必要があります。
  • 実親の同意:原則として、養子となる子の実父母(代理出産の場合は主に代理母)の同意が必要です。ただし、実親が意思表示できない場合や、虐待など子の利益を著しく害する事由がある場合には、同意がなくても縁組が認められることがあります。
  • 子の利益:縁組が子の利益のために特に必要があると認められることが最も重要です。家庭裁判所は、養親候補者の養育能力、養育状況、実親の状況などを総合的に考慮して判断します。
  • 試験養育期間:通常、縁組成立前に6か月以上の試験養育期間(監護状況の観察)が必要とされます。
  • 手続き期間:申立てから審判確定までには、一般的に半年以上の期間がかかると言われています。

代理出産が可能な国


日本国内での実施が困難なため、代理出産を希望する日本人夫婦は海外に目を向けることになります。しかし、国によって法律や規制は大きく異なり、近年、規制を強化する国も出てきています。以下にいくつかの国の状況を概説しますが、法改正は頻繁に行われるため、常に最新の情報を確認することが不可欠です。

アメリカ

州ごとに法律が大きく異なるため、代理出産に友好的な州を選ぶことが重要です。カリフォルニア州などが代表的で、同性カップルや独身者にも門戸を開いており、親権を確立する法的手続きが整備されています。

ギリシャ

依頼者となれるのは、婚姻関係にある夫婦、事実婚のカップル、独身女性です。同性カップルは認められていません。裁判所の事前許可が必要であり、医学的な必要性が厳しく審査されます。謝礼目的の商業的代理出産は認められていませんが、一定額までの補償は可能です。

カザフスタン

カザフスタンは、かつては商業的な代理出産を外国人にも認めており、比較的利用しやすい国の一つとされていました。しかし、近年、外国人に対する規制が強化されている可能性があり、一部のエージェントは、カザフスタンでの新規プログラムの受付を終了しています。
現在、外国人、特に日本人がカザフスタンで代理出産を利用できるかどうかは不透明な状況であり、極めて慎重な確認が必要です。

ウクライナ

既婚の異性カップルに限定され、医学的理由が必要です。法律上、出生時から依頼者夫婦が親とみなされ、出生証明書にもそのように記載される点が大きな特徴で、法的な手続きが比較的スムーズとされてきました。しかし、2022年以降のロシアによる侵攻により、渡航や滞在、代理母や子どもの安全確保に関して極めて深刻なリスクと困難が生じています。

ジョージア

ウクライナと同様に、既婚の異性カップルに限定され、医学的理由が必要です。商業的代理出産が認められています。親子関係に関する法律も依頼者にとって有利とされています。
比較的早くから代理出産を合法化(1997年~)し、外国人を受け入れてきた国です。

ロシア

かつては外国人にも開かれた選択肢でしたが、2022年12月の法改正により、外国人による代理出産の利用は全面的に禁止されました。現在はロシア国民に限定されています。

日本人が代理出産を行う方法は?


日本国内での代理出産が事実上不可能なため、これを希望する日本人は海外で実施する必要があります。しかし、これには多くの複雑な手続きと注意点が伴います。

まず、渡航先の国を選定する際には、前述の通り、その国の法律が外国人による代理出産を認めているか、商業的なものは可能か、依頼者の要件(婚姻状況、性別、医学的理由など)、代理母の要件と権利保護、そして生まれた子どもの親子関係がどのように規定されるかを詳細に調査する必要があります。

次に、出産後の日本への帰国と、日本法における手続きが極めて重要になります。海外で依頼者夫婦が法的な親として認められたとしても、日本法では依然として「出産した女性=母」の原則が適用されるため、そのままでは出生届が受理されない可能性があります。
これを回避し、子どもが日本国籍を取得し、戸籍に記載されるためには、通常、以下のステップが必要となります。

  1. 父親による認知: 父親となる日本人男性が、子どもが生まれる前(胎児認知)または出生後に、子どもを認知する手続きを行います。これにより、法律上の父子関係が成立し、国籍法に基づき子どもは日本国籍を取得できます。
  2. 出生届の提出: 父親の認知に基づき、在外公館(大使館や領事館。ただし台湾など一部地域では不可 )または本籍地の役所に出生届を提出します。この際、現地の出生証明書や認知に関する書類などが必要となります。
  3. 母親による特別養子縁組: 依頼した妻が法律上の母親となるためには、日本に帰国後、家庭裁判所に特別養子縁組の申立てを行う必要があります。

これらの手続き、特に特別養子縁組は時間と労力を要します。また、国によっては、子どもの出生証明書の発行や出国手続き、日本での国籍取得手続きに時間がかかったり、予期せぬ問題が発生したりする可能性もあります。

さらに、現在審議中の2025年提出法案が、仮に海外での代理出産依頼をも禁止し、罰則を設ける形で成立した場合 、日本人による海外での代理出産そのものが法的に不可能、あるいは極めてリスクの高い行為となる可能性があります。この法案の行方は、今後の日本人の代理出産へのアプローチを根本的に左右する可能性があります。

したがって、日本人が代理出産を検討する際には、渡航先の国の法律だけでなく、日本の法律(特に親子法、戸籍法、国籍法)に関する専門的な法的助言を得ること、倫理的な側面も含めて十分に情報を収集し熟慮すること、そして信頼できるエージェントを慎重に選ぶことが不可欠なのです。

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まとめ | 代理出産をめぐる現状と向き合うために


日本における代理出産は、明確な法律がない中でさまざまな課題を抱えています。親子関係の法的な問題、倫理的ジレンマ、国際的な規制の変化などが絡み合い、非常に複雑で慎重な判断が求められる分野です。
特に今後、2025年の法改正によって海外での実施までも規制対象となる可能性があるため、最新の動向に注目しつつ、法律・医療・倫理それぞれの側面から多角的に情報収集することが重要です。信頼できる専門家への相談を通じて、自分たちにとって最良の選択肢を模索していきましょう。

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