不妊治療には、排卵誘発剤を使用して卵巣刺激を行うのが一般的な方法です。
このとき、hMG製剤などで卵巣が過剰に刺激されることで出てくる様々な副作用をOHSSと言います。
OHSSとは、ovarian hyperstimulation syndromeの略で、「卵巣過剰刺激症候群」とも呼ばれます。

OHSS

主な症状としては、卵胞が多数発育して大きくなり卵巣全体が腫れあがることによる卵巣の腫大と血管透過性亢進による腹水の貯留が挙げられます。
卵巣の腫大だけでは大問題にはなりませんが、大量の腹水が貯留し、血管内の水分が減少し血液が濃縮された状態となるケースもあります。

症状は軽症から重症まで様々です。
卵巣が腫大することからはじまり、症状が悪化して最重症となると大量の腹水や血液濃縮がおこり死を招くこともありますが、死に至るのは非常に稀なケースです。
症状としては、膨満感、むくみ、のどの渇き、短期間での体重増加、息切れ、尿が出にくいなどがあります。

OHSSが起こりやすいのは、下記のような因子を持ったひとと言われています。

  • 35歳以下
  • やせ型
  • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)あるいはPCOSに似た検査所見
  • OHSSの既往

血中エストラジオールの異常高値、発育卵胞数が20個以上、高用量のゴナドトロピン製剤使用なども重要となります。
また、黄体機能不全に対するhCG追加投与や妊娠自体もOHSSのリスク因子となります。

OHSSを発症してしまった場合には、症状に個人差があるので個別の対応が必要となります。
軽症の場合、外来通院で対処することが可能です。
安静にし、数日ごとの通院で超音波検査や血液検査、また腹部膨満感の増悪や尿量減少などの自覚症状のチェックなどを行います。

腹水が溜まりすぎて呼吸困難等が出現したときは針を刺して腹水を抜く処置が必要になります。
重症の状態で妊娠が成立するとさらに重症化するため場合によっては妊娠中絶を選択することもあります。

重症になると死に至ることもまれにありますが、OHSSは予防可能です。
リスク因子を十分に考慮し、発育卵胞が多すぎる場合は、その周期の排卵誘発は中止したほうがよいこともあります。
排卵誘発の過程で卵巣の反応を見ながら、投薬量の変更や、必要に応じて食事や水分制限を行うことで、リスクは軽減できます。