年齢とともに妊娠しにくくなる理由の一つに「卵子の質の低下」があります。妊娠を望む方にとって、卵子の質を保つことはとても大切なテーマです。
本記事では、加齢の影響や妊娠との関係を解説するとともに、日々の食事や運動、睡眠、ストレス管理など、体づくりに役立つ生活習慣の見直しポイントをご紹介します。
卵子の質と加齢について | 知っておきたい基本
卵子の「質」とは、単に受精しやすいかどうかだけでなく、受精後に正常に発育・着床し、健康な妊娠を継続できる潜在的な能力を指す指標です。
この質には、染色体の数や構造が正常であること、細胞分裂に必要なエネルギーを作り出すミトコンドリアが正常に機能することなどが含まれます。
卵子の質に大きな影響を与える要因は「加齢」です。女性が年齢を重ねるとともに、卵子の染色体異常の割合が増加し、ミトコンドリア機能が低下する傾向があります。
特に35歳を過ぎると、その変化は顕著になり、妊娠率の低下や流産率の上昇につながることが知られています。
そのため、日々の生活習慣を見直し、体全体の健康状態やホルモンバランス、酸化ストレスなど、卵子が存在する体内環境を整えることは非常に重要です。
卵子の質の低下は、妊娠にどう影響する?
卵子の質の低下は、妊娠の各段階に影響を与える可能性があります。
・ 受精しづらくなる
加齢などにより卵子の透明帯(卵子の周りの膜)が硬くなることなどが報告されており、精子が入りにくくなる可能性があります。
・ 着床率が下がる
受精しても胚(受精卵)の発育が途中で止まったり、うまく進まなかったりして、子宮内膜に定着しにくくなる可能性があります。
・ 流産のリスクが高まる
卵子の染色体異常は、流産の主な原因の一つであり、加齢とともにそのリスクは高まります。
・ 胎児の染色体異常の確率が上がる
卵子の加齢に伴う減数分裂(染色体を分配するプロセス)のエラーにより、染色体異常を持つ卵子が増えるためです。
卵子の質を高めるためにできること
卵子の質に大きく影響するのは加齢であり、生活習慣だけで加齢による変化を覆すことは困難です。
しかし、健康的な生活習慣を心がけることは、体全体のコンディションを整え、ホルモンバランスを安定させ、酸化ストレスを軽減するなど、妊娠に適した体内環境を維持・サポートする上で非常に重要です。ここでは、健康をサポートする観点から、食生活や生活習慣で見直せるポイントを紹介します。
食生活を見直す
バランスの取れた食事は、全身の健康の基盤であり、ホルモンバランスや酸化ストレスレベルにも影響を与えるため、間接的に生殖環境にも関わってきます。特に、抗酸化物質が豊富な食品含む、健康的でバランスの取れた食事を心がけることが、体全体の健康維持に繋がり、結果として生殖に適した環境をサポートする可能性があります。
妊娠しやすい身体づくりをサポートする栄養素
以下の栄養素は、一般的な健康維持や体の特定の機能(細胞分裂、ホルモンバランス、抗酸化作用など)をサポートすると考えられています。これらが卵子の「質」そのものを直接的に向上させるという強力な証拠は限定的ですが、バランスの取れた食事の一部として摂取することで、生殖に適した体内環境づくりをサポートする可能性があります。
(注意:以下の情報は一般的な健康に関するものであり、特定の栄養素が卵子の質を直接改善することを保証するものではありません。サプリメントの利用は医師に相談しましょう。)
・ ビタミンC(柑橘類、パプリカ、ブロッコリーなど)
└抗酸化作用があり、細胞の健康維持に役立つとされる。
└コラーゲン生成に関与する。
・ ビタミンE(アーモンド、カボチャ、アボカドなど)
└抗酸化作用があり、細胞を酸化ストレスから守る働きが期待される。
└血流サポートやホルモン分泌に関連する可能性が指摘されることもある
・ オメガ3脂肪酸(青魚、亜麻仁油、くるみなど)
└細胞膜の構成成分であり、抗炎症作用などが知られる必須脂肪酸。
└血流改善が期待され、卵巣への栄養が届きやすくなる可能性がある。
・ 葉酸(ほうれん草、枝豆、レバーなど)
└細胞分裂やDNA合成に不可欠で、特に妊娠初期の胎児の神経管閉鎖障害のリスクを低減するために重要。
└卵子の質の維持や劣化抑制、子宮内膜の発育サポートに関与する可能性もある。
・ 鉄分(赤身の肉、ほうれん草、ひじきなど)
└赤血球のヘモグロビンの構成成分であり、全身への酸素運搬に不可欠。
└貧血を予防し、身体全体の代謝を整える。
妊活中は摂取を控えめにしたい食品・成分
以下の食品や成分の過剰摂取は、炎症の促進、ホルモンバランスの乱れ、代謝への悪影響などを通じて、生殖健康にマイナスの影響を与える可能性があると指摘されています。摂取量を意識し、バランスの取れた食事を心がけましょう。
・ トランス脂肪酸(マーガリン、ファストフード)
└炎症を促進し、インスリン抵抗性や心血管系の健康に悪影響を与える可能性がある。
・ 精製された糖類(白砂糖、加糖飲料、菓子類など)
└過剰摂取は血糖値の急上昇を招き、ホルモンバランスに影響を与える可能性がある。
・ アルコール
└過剰な摂取は、ホルモンバランスを乱し、酸化ストレスを増加させる可能性がある。
・ カフェイン(コーヒー、エナジードリンクなど)
└1日の摂取量が200mg~300mgを超えると、妊娠までの期間が長くなったり、流産リスクが高まったりする可能性が指摘されている。
生活習慣を見直す
日々の生活リズムや習慣も、ホルモンバランスや自律神経、ストレスレベルなどを通じて、体全体の健康状態、ひいては生殖機能に影響を与えます。適度な運動、質の高い睡眠、ストレス管理などを通じて、心身のバランスを整え、妊娠に向けた体づくりをサポートしましょう
適度な運動で血流を促進する
日々の生活に適度な運動を取り入れることで、全身の血流が促され、代謝が活発になります。これによりストレスの軽減や自律神経の安定にもつながります。ウォーキングやヨガ、ストレッチなどは、始めやすく心身のバランスを整える効果もあります。
さらに、スクワットのような軽い筋トレを取り入れると、骨盤周りの血流が改善し、冷え対策にも有効です。ただし、過度な運動は排卵障害のリスクがあるため、「適度」を意識して行うことが大切です。
良質な睡眠でホルモンバランスを整える
質の高い睡眠は、ホルモンバランスの維持や細胞の修復に欠かせません。特に、7~8時間の安定した睡眠は、ストレスホルモンや生殖ホルモンの分泌リズムを正常に保つために重要です。
睡眠に関わるメラトニンは、卵巣でも抗酸化作用を発揮し、卵子の保護に役立つ可能性があります。就寝前のスマートフォンの使用は控え、ぬるめの入浴や軽いストレッチでリラックスする習慣をつけると、睡眠の質を高めやすくなります。
ストレスを減らす
強いストレスは自律神経を乱し、ホルモンバランスの崩れや月経不順の原因になることがあります。不妊治療中のストレスは心身に大きく影響するため、適切なストレス管理が欠かせません。
卵子の質に直接的な影響があるとは言えませんが、体全体の健やかな状態を保つには重要な要素です。趣味やリラックス法を取り入れたり、信頼できる相手と話したりすることで、心を緩める時間を意識的に確保しましょう
体を冷やさない
手足の冷えには血行不良や筋肉量の少なさが関係していることもあり、リラックス効果のある温活(腹巻・靴下・温かい飲み物・入浴など)は、心身の快適さに貢献します。
体を温める行動は直接的な卵巣機能の改善にはつながらないものの、ストレス軽減や血流促進を通じて間接的にコンディションを整える手助けになります。
その他
以下は、まだ研究段階であったり、科学的根拠が確立されていなかったりする情報ですが、参考として紹介します。
・間欠的ファスティング(断食)
近年、マウスを用いた研究で、間欠的ファスティングが加齢や肥満による卵子の質の低下を改善する可能性があると報告されています。抗酸化機能の回復やミトコンドリアの活性化といった効果が期待されており、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)女性の代謝改善にも関連が示唆されています。
ただし、これらは主に動物実験の段階であり、ヒトへの効果や安全性は確立されていません。妊娠を希望する場合は、必ず医師の指導のもとで取り組むことが重要です。
・締め付けない服を着る
体を強く締め付ける衣服は血行を妨げることがあり、栄養や酸素の巡りにも影響を及ぼす可能性があります。衣服による直接的な卵子への影響は少ないとされますが、リラックスできる服装を選ぶことでストレスが軽減され、結果として心身の健康維持に役立つことがあります。無理のない快適な服装を意識しましょう。
まとめ|生活習慣の見直しで、妊娠に向けた健康な体づくりを
卵子の数と質は、主に加齢によって変化し、特に35歳以降はその傾向が顕著になります。
しかし、バランスの取れた食生活、適度な運動、質の高い睡眠、ストレスケアといった健康的な生活習慣を心がけることで、妊娠に適した体内環境をサポートできます。
無理のない範囲でできることから取り入れ、前向きに体調管理に取り組んでいきましょう。