不妊治療の保険適用で変わる選択肢|治療内容・適用条件・活用できる制度などを解説

2022年4月から不妊治療への保険適用が始まり、「費用が高そう」「何が対象になるのかわからない」と感じていた方にとって、治療を始めやすい環境が整いつつあります。しかし、保険が使える治療と使えない治療があることや、年齢や回数などの条件があることは意外と知られていません。本記事では、不妊治療における保険適用の範囲や注意点、実際に自己負担がどれくらい軽減されるのかについて、初めて検討する方にもわかりやすく解説します。併せて、活用できる公的制度についても解説しますので、治療を前向きに考えるための一歩として、ぜひ参考にしてください。

【目次】

■2022年から不妊治療が保険適用に

■保険が使える治療とそうでない治療の違い

・保険対象になる基本的な治療内容

・保険が使えない治療例

■保険が使える条件をチェック

・年齢と治療回数に制限あり

・事実婚も対象に含まれる

■治療費は実際どれくらい軽減される?

・3割負担でも総額は変動、目安の理解が重要

■保険でできない治療もある?混合診療の注意点

・「混合診療」の原則禁止ルール

・例外:先進医療との併用は可能

■費用面で安心できる制度をあわせて活用

・高額療養費制度

・医療費控除

・地方自治体の助成制度

■不妊治療を始めるなら、保険適用の仕組みを正しく知って安心のスタートを

2022年から不妊治療が保険適用に

2022年4月から、不妊治療が公的医療保険の適用対象となりました。これにより、これまで全額自己負担だった費用のうち、約7割が保険でまかなえるようになり、経済的な負担が大きく軽減されました。体外受精や顕微授精といった、これまで自由診療として扱われていた高度な生殖補助医療も保険の対象に含まれています。

保険診療部分の費用は、全国一律の診療報酬点数に基づいて算定されるため、一定の標準化が図られました。一方で、使用する薬剤の種類や量、さらには保険適用外のオプション治療の有無によって治療にかかる総費用には差が出ることもあります。それでも、「費用面の不安が軽くなり、治療に踏み出せた」といった声もあり、制度の後押しによって不妊治療を始めやすい環境が整ってきていると言えるでしょう。

保険が使える治療とそうでない治療の違い

不妊治療が保険適用となったことで、多くの方が経済的な負担を軽減しながら治療を受けられるようになりました。しかし、すべての治療が保険の対象になるわけではなく、保険が使える治療と使えない治療には明確な違いがあります。ここでは、その違いについて詳しく解説します。

保険対象になる基本的な治療内容 

不妊治療において保険適用となる基本的な治療内容には、一般不妊治療と生殖補助医療が含まれます。これらは医学的なガイドラインに基づき、標準的な治療として認められているものです。

まず、一般不妊治療は排卵のタイミングを見計らって妊娠を促す「タイミング法」や、採取した精子を子宮内に注入する「人工授精(AIH)」が保険の対象となっています。次に、生殖補助医療(ART)では、「体外受精(IVF)」や「顕微授精(ICSI)」が保険適用の対象です。これらの治療に伴って行われる採卵から受精卵の培養、胚凍結保存、そして胚移植までの一連の工程も保険でカバーされています。

加えて治療計画に基づいて行われる「胚の凍結保存」、および後日にその凍結胚を用いた胚移植にも保険が適用されます。男性不妊向けには、射精で精子が得られない場合に行われる精巣や精巣上体からの精子採取手術の一部が保険適用対象です。このように、近年の制度改正により、不妊治療のさまざまな段階で保険の支援を受けながら治療を進めることが可能になっています。

保険が使えない治療例

次に保険が使えない治療として、以下のものが挙げられます。

・将来の妊娠に備えるための卵子・精子・胚の凍結保存(いわゆる社会的凍結)

・子宮内膜の状態を調べる特殊な遺伝子検査(ERAなど) 

・卵子の質を調べる検査や特殊な精子選別法

※ただし、一部の先進的な技術は「先進医療」として、保険診療と組み合わせて実施できる場合がある(詳細は後述)

将来の妊娠に備えて健康なうちに卵子や精子、受精卵(胚)を凍結保存する、いわゆる「社会的適応による凍結保存」は、医療上の明確な必要性がない限り保険適用外となります。また、子宮内膜の着床能を調べるための特殊な遺伝子検査(ERA検査)も保険の対象ではありません。さらに、卵子の質を評価する検査や精子の形態や運動性をより厳密に評価し、選別するような特殊な方法も保険の適用外です。

なお、排卵誘発に用いる薬剤については、基本的に保険が適用されます(クロミッドなど)。しかし中には、適応外使用となる薬剤も存在します。使用薬剤によって自己負担が生じることもあるため、治療前に医師とよく相談することが大切です。

保険が使える条件をチェック

不妊治療に保険を適用するためには、いくつかの条件を満たす必要があります。年齢や治療回数、治療の内容によっては保険の対象外となることもあるため、事前にしっかり確認しておくことが大切です。ここでは、保険が使えるための主な条件について解説します。

年齢と治療回数に制限あり

不妊治療で保険診療を受けるためには、年齢や治療回数に関する一定の条件を満たす必要があります。特に重要なのは、治療計画を開始する時点での女性の年齢です。例えば、40歳未満の場合、1子につき最大6回まで胚移植が保険適用の対象となります。一方で、40歳以上43歳未満の場合は、1子につき最大3回までに制限されます。

なお、回数のカウント対象は「胚移植」であり、「採卵」は含まれません(胚移植までを1回とするため)。また、保険診療により子どもを1人出産した場合には、次の子どもを望む際に治療回数のカウントがリセットされ、再び上記の回数まで保険が適用されます。このように、不妊治療における保険適用の条件を正しく理解しておくことは、計画的な治療において重要です。

事実婚も対象に含まれる

不妊治療における保険診療は婚姻届を提出していない、いわゆる事実婚のカップルであっても、一定の条件を満たせば適用されます。具体的には、治療の結果として出生した子どもについて認知を行う意向があることや、同一世帯であることを証明する書類の提出が求められる場合があります。なお、これらの条件は2025年5月時点での制度に基づくものであり、将来的に変更となる可能性があるため、最新の情報を適宜確認することが大切です。

治療費は実際どれくらい軽減される?

保険適用によって不妊治療にかかる費用は大幅に軽減されましたが、実際にどれくらい安くなるのか気になるでしょう。自己負担の割合や治療内容によって費用には差があるため、目安を知っておくことで治療計画も立てやすくなります。ここでは、主な治療ごとの費用の変化について紹介します。

3割負担でも総額は変動、目安の理解が重要

保険適用により、基本的な治療手技にかかる費用の自己負担は、原則3割に軽減されました。しかし、実際の総額は個々の治療計画(使用する薬剤の種類や量、採卵・培養・凍結する胚の数、追加検査の有無など)や医療機関によって大きく異なります。

以下の表は、主な治療手技の診療報酬点数に基づく3割負担額の目安です。これには手技料のみが含まれており、診察料、検査料、薬剤費、麻酔関連費用などは別途必要となる点に注意してください。特に薬剤費は変動が大きく、総額に影響します。

※2025年5月時点

主な不妊治療の費用目安(保険診療・3割負担)

治療内容主な診療報酬点数(目安)3割自己負担額(目安)備考
人工授精(AIH)1,820点約 5,500円 
採卵2,400点~7,200点約 7,200円~21,600円採卵数により変動(1個、2~5個、6~9個、10個以上)
体外受精(媒精)4,200点約 12,600円 
顕微授精(ICSI)4,800点~6,800点約 14,400円~20,400円実施した卵子の数により変動(1個、2~5個、6~9個、10個以上)
受精卵・胚培養4,500点~10,500点約 13,500円~31,500円培養する胚の数により変動(1個、2~5個、6~9個、10個以上)。胚盤胞加算等あり。
胚凍結保存(導入時)5,000点~9,500点約 15,000円~28,500円凍結する胚の数により変動(1個、2~5個、6~9個、10個以上)。維持管理料は別途(保険適用外の場合あり)。
凍結・融解胚移植12,000点約 36,000円アシステッドハッチング等の加算あり。
精巣内精子採取術(TESE)10,000点~19,400点約 30,000円~58,200円手技により異なる(単純、顕微鏡下)。

【注記】

・上記は主要な手技料の3割負担額の目安であり、診察料、検査料、薬剤費、麻酔関連費用、文書料などは含まれていません。

・薬剤費は使用する種類や量により大きく変動します。

・実際の費用は個々の治療計画、実施する手技の組み合わせ、医療機関によって異なります。必ず事前に医療機関にご確認ください。

・麻酔や一部の薬剤、標準治療に含まれない検査などは別途料金が発生することがあります。治療開始前に費用総額の見積もりや内訳について、医療機関とよく相談することが重要です。

保険でできない治療もある?混合診療の注意点

保険が適用される不妊治療が増えた一方で、すべての治療が保険の対象になるわけではありません。最新の検査や技術、一部の薬剤などは保険が適用されず自己負担となることがあります。また、保険診療と自由診療を組み合わせる「混合診療」には注意が必要です。ここでは保険が使えない治療と混合診療のルールについて解説します。

「混合診療」の原則禁止ルール

日本では、健康保険が使える「保険診療」と、全額自己負担になる「自由診療(保険外診療)」同時に受けること、すなわち「混合診療」は原則として認められていません。例えば、不妊治療で保険が使えない検査や治療を希望して受けた場合、たとえそのときに受けた診察や薬が本来は保険の対象であっても、その治療全体が「自由診療」とみなされ、すべて自費となる可能性があります。このようなことを防ぐためにも、治療を始める前に医療機関でしっかりと説明を受け、費用の詳細や保険適用の有無についてよく確認しておくことが大切です。

例外:先進医療との併用は可能

混合診療は原則として認められていませんが、例外として「先進医療」に指定されている技術については保険診療と組み合わせて受けることが可能です。先進医療とは将来的に保険が使えるかどうかを評価している段階の医療技術のことで、国が定めたものに限られます。誰でもどこでも受けられるわけではなく、厚生労働省に届け出て承認を受けた特定の医療機関だけで実施できます。

不妊治療の分野での先進医療の例としては、受精卵を一定時間ごとに撮影して成長を見守る技術「タイムラプス培養」や、より形の良い精子を詳しく観察して選ぶ方法「IMSI(形態良好精子選別術)」などがあります。これらの対象技術は、状況に応じて見直されることがあります。

先進医療を取り入れた場合でも診察や血液検査、薬の処方、基本的な体外受精などの保険診療部分は通常通り保険が適用されます(自己負担3割)。ただし、先進医療の技術料部分のみが全額自己負担となります。そのため、希望する先進医療が受けられるか、費用がどの程度かかるのか、事前に医療機関に確認しておくことが重要です。

費用面で安心できる制度をあわせて活用

保険適用だけでなく、以下の制度も上手く活用することで経済的負担を軽減できます。

高額療養費制度

高額療養費制度とは、1ヶ月(月の1日から末日まで)の自己負担額が、年齢や所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超えた金額が後から払い戻される制度のことです。

自己負担限度額は加入者の所得区分によって異なり、高所得者ほど上限額が高く、低所得者ほど低く設定されています。また、過去12ヶ月以内に3回以上この上限額に達した場合は、4回目以降の自己負担限度額が引き下げられる「多数回該当」の制度もあります。払い戻しを受けるには、通常加入している健康保険(協会けんぽ、健康保険組合、国民健康保険など)に対して申請が必要です。

医療費控除

医療費控除とは、年間で10万円以上の医療費を支払った場合に確定申告を行うことで、所得控除を受けられる制度のことです。これにより、結果的に所得税や住民税が軽減されます。控除の対象となる医療費には、不妊治療にかかる治療費や薬剤費のほか、通院にかかった交通費(公共交通機関に限る)などが含まれます。申告の際には、医療費の支出を証明するために領収書を必ず保管しておく必要があります。

地方自治体の助成制度

国の保険制度の枠を超えて、都道府県や市区町村が独自に設けた不妊治療に関する助成制度も利用可能な場合があります。例えば、令和6年度(2024年度)では、東京都が保険診療と併用して実施された特定の先進医療に対し、その費用の7割(1回の治療あたり上限15万円)を助成する制度が実施されています。ただし、これらの助成制度には自治体ごとに年齢や所得などの条件が設けられていることが多いため、利用を検討する際は事前に各自治体のホームページなどで詳細を確認することが大切です。

不妊治療を始めるなら、保険適用の仕組みを正しく知って安心のスタートを

不妊治療の保険適用はこれまで費用面で治療をためらっていた方にとって、前向きに一歩踏み出せる大きな支えになります。保険が使える治療とそうでない治療の違いや、年齢・回数制限などの条件を理解しておくことで、安心して治療計画を立てられます。高額療養費制度や医療費控除、自治体の助成制度などもあわせて活用すれば、費用負担をさらに抑えることも可能です。まずは、正確な情報を手に入れて、自分に合った治療方法と向き合うことから始めてみましょう。