トリオ検査(ERA/EMMA/ALICE検査)でわかる子宮内の状態とは?妊娠につながらない理由探しの手がかりに
体外受精で良好な胚を何度も移植しても妊娠に至らないといった状況に直面すると、「自分の体のどこに原因があるのだろう」と不安や焦りを感じる方も多いのではないでしょうか。近年、着床しにくい原因のひとつとして「子宮内の環境」が注目されています。この「子宮内の環境」を見る方法でトリオ検査があります。本記事では、トリオ検査でわかる子宮内の状態、どのような人に検査が推奨されるのか、検査結果によってその後の治療がどのように変わるのか、といったポイントをわかりやすく解説します。着床不全の原因を整理しながら、より適切な治療選択を行う際の参考にしてください。
【目次】
■3つの検査をまとめて行うトリオ検査の内容とは?
・ERA検査:着床に適したタイミングを見極める
・EMMA検査:子宮内の善玉菌のバランスをチェック
・ALICE検査:慢性的な子宮内膜炎の有無を調べる
■トリオ検査の対象となる人
・胚の質に問題がなくても、妊娠できない人
・PGT-A後の移植前にも検討されるケースも
■トリオ検査でわかることから治療方針が変わる
■検査を受けるタイミングと注意点
■不妊治療の選択肢として、トリオ検査を検討してみる
3つの検査をまとめて行うトリオ検査の内容とは?
トリオ検査とは、ERA検査・EMMA検査・ALICE検査の3つを組み合わせて行う検査のことです。これらはいずれも、子宮内膜の状態を詳しく調べることで、着床しにくい原因を探ることを目的としています。これらの検査では子宮内膜を採取して分析するという共通の手順で行われるため、体への負担や通院の手間を抑えるために、同時に実施されることが多いのが特徴です。
ERA検査:着床に適したタイミングを見極める
ERA検査(子宮内膜着床能検査)は、胚を移植する最も適したタイミング=「着床の窓」を特定するための検査です。「着床の窓」とは、子宮が胚を受け入れやすくなるごく限られた期間のことで、この時期は人によってわずかに異なります。中には、数時間のズレでも着床しにくくなる場合もあり、タイミングを見極めることが妊娠率の向上につながると考えられています。
ERA検査では子宮内膜の細胞を採取し、遺伝子の働きを解析します。検査は実際の移植周期と同じようにホルモン補充を行い、本来の胚を移植する日に合わせて子宮内膜を採取します。結果が出るまでにはおおよそ2~3週間かかり、その結果をもとに移植のタイミングを1日早めたり、逆に遅らせたりといった調整を行うことで、より着床しやすい環境を整えることができます。
EMMA検査:子宮内の善玉菌のバランスをチェック
EMMA検査(子宮内マイクロバイオーム検査)は、子宮内に存在する細菌のバランス(フローラ)を調べる検査です。実は子宮内にも、腸や腟と同じように多くの細菌が存在しており、そのバランスが着床や妊娠のしやすさに関わっていることがわかっています。特にラクトバチルス属(乳酸菌の一種)は、着床に好ましいとされる代表的な善玉菌です。この菌が少ないと、悪玉菌が増えて炎症を起こし、着床を妨げる可能性があります。
EMMA検査でラクトバチルスが不足しているとわかった場合には、腟内に直接入れるタイプの乳酸菌製剤などで環境を整える治療が検討されます。ラクトバチルスの割合が高いほど妊娠に至るケースが多いという報告もあり、子宮内の菌バランスを整えることが妊娠率の向上につながると考えられています。
ALICE検査:慢性的な子宮内膜炎の有無を調べる
ALICE検査(慢性子宮内膜炎検査)は、子宮内膜に慢性的な炎症が起きていないかを確認するための検査です。子宮内膜炎は炎症が長く続いていても痛みや発熱などの自覚症状が乏しいことが多く、検査を行わなければ気づかない場合もあります。しかし、慢性炎症があると胚が着床しにくくなることがあるため、不妊治療の妨げとなるリスクがあります。
ALICE検査では、採取した子宮内膜から炎症の原因となる細菌が存在するかどうかを詳しく調べます。もし病原菌が見つかった場合には、抗菌薬の内服などで感染を治療し、必要に応じて再検査で炎症が改善したかを確認します。この検査は流産を繰り返している方や着床不全が続いている方に行われることが多く、妊娠を妨げている見えない原因を明らかにする手がかりとなります。
トリオ検査の対象となる人
体外受精を続けても妊娠に至らない場合、胚の状態だけでなく子宮側の環境に原因があることも少なくありません。こうした状況で、治療の方向性を見直す手がかりとなるのがトリオ検査です。ここでは、どのような人が検査を検討すべきか、そしてどんな場面で医師が提案するのかについて解説します。
胚の質に問題がなくても、妊娠できない人
トリオ検査は良好胚を複数回移植しても妊娠に至らない「反復着床不全」と呼ばれる方を主な対象としています。「反復着床不全」は見た目に問題のない胚を3回以上移植しても妊娠が成立しない場合に診断されます。胚の質に問題がないと考えられる場合、次の段階として注目されるのが子宮内の環境を調べる検査です。原因がわからないまま移植を繰り返すよりも、トリオ検査などで着床しづらい要因を探り、改善につなげることが治療の効率を高める助けになります。
また、近年では医師の判断によっては反復着床不全と診断される前の段階で検査が提案されるケースもあり、早期に子宮内の状態を確認することが妊娠への近道となる場合もあります。
PGT-A後の移植前にも検討されるケースも
PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)は胚の染色体異常の有無を調べる検査で、正常と判断された胚は妊娠の可能性が高いとされています。しかし、そのような胚を移植しても妊娠に至らない場合、次に注目すべきは子宮側の「受け入れ状態」です。移植のタイミングがわずかにずれていたり、子宮内に慢性的な炎症や細菌バランスが乱れたりすると、胚が着床しづらくなることがあります。
そのため、胚に問題がないと確認されたあとには、ERA・EMMA・ALICEといった子宮内の環境を調べる検査を行うことが推奨されるケースもあります。PGT-Aで胚の質を確認し、トリオ検査で子宮の状態を整えるという、二つのステップを組み合わせることで、着床不全の原因をより多角的に探ることができます。
トリオ検査でわかることから治療方針が変わる
トリオ検査の結果は、その後の移植計画や治療方針を見直すための重要な手がかりになります。例えばERA検査で着床のタイミングにズレが見つかった場合は、胚を戻すスケジュールを数時間~1日単位で細かく調整します。また、EMMA検査で善玉菌(ラクトバチルス)が不足している場合には、乳酸菌製剤などを用いて菌のバランスを調整し、より着床しやすい環境を目指します。さらに、ALICE検査で子宮内膜炎が見つかった場合には、抗菌薬による治療を完了してから移植のタイミングを検討することになります。
このように、原因を明確にしたうえで対策を立てられることがトリオ検査の大きな利点です。一方で、異常が見つからなかった場合も、子宮内の環境に問題がないことを確認できるため、次の治療方針を決めるうえでの大切な判断材料になります。
検査を受けるタイミングと注意点
トリオ検査は子宮内膜の細胞を採取して行う検査のため、実施した周期には胚移植を行うことができません。また、検査後は子宮を休める目的で1~2周期ほどの休養期間をおくことが一般的です。検査のタイミングは、どの検査を組み合わせるかによって異なります。ERA検査はホルモンで子宮内膜を整えた状態(ホルモン補充周期など)で行う必要があるため、あらかじめ周期を調整してスケジュールを組む必要があります。
一方で、EMMA検査やALICE検査は自然周期でも実施可能ですが、ERAと同時に行う場合は、ERAのスケジュールに合わせて同じタイミングで採取するのが一般的です。子宮内膜の細胞を採取する際には、軽い痛みや少量の出血を伴うことがあります。また、検査結果が出るまでには10日~3週間ほどかかるため、その間は次の治療まで少し時間が空くことになります。妊娠を急ぐ気持ちがある方にとっては、この待機期間がもどかしく感じられるかもしれませんが、検査で得られる情報は今後の治療の精度を高めるうえで大きな意味があります。通院回数やホルモン投与の有無などは医療機関によって異なるため、事前にスケジュールや治療内容を確認しておくと安心です。
不妊治療の選択肢として、トリオ検査を検討してみる
トリオ検査は良好な胚を移植しても妊娠に至らない場合に、子宮内の環境を多角的に確認できる検査です。着床のタイミング(ERA)、細菌バランス(EMMA)、炎症の有無(ALICE)の3つの観点から子宮内を評価することで、問題点をより具体的に把握し、次の治療方針を立てやすくなります。移植を繰り返しても結果が出ないときは、一度立ち止まって自分の体の中で何が起きているのかを知ることが大切です。「なぜうまくいかないのだろう」と感じている方は、次の一歩としてトリオ検査を検討してみてください。
