体外受精と顕微授精の違いとは?治療法の特徴と選び方を解説
不妊治療の選択肢として体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)をよく耳にしますが、何が違うのか疑問になることがあるでしょう。どちらも体外で卵子と精子を受精させる方法ですが、治療の内容や適応となるケースには違いがあります。この記事では、初めて体外受精に取り組もうと考えている方や、過去の治療で思うような結果が出ず顕微授精への切り替えを検討している方に向けて、両者の違いや特徴、選択の基準、治療の流れ、費用、リスクなどをわかりやすく解説します。ご自身にとってより納得のいく治療法を選ぶための参考にとして、ぜひお役立てください。
【目次】
■体外受精と顕微授精は受精方法が異なる
・体外受精(IVF)とは
・顕微授精(ICSI)とは
■どちらが向いている?適応の違いを把握
・体外受精が適しているケース
・顕微授精が選ばれるケース
■治療の流れはどちらも基本的に共通
・採卵から胚移植までのステップ
■費用は顕微授精のほうが高額になりやすい
・保険適用での費用例(3割負担)
■どちらにもある合併症リスク
・共通して注意したい症
・治療前に確認したいこと
■受精と顕微授精、自分に合った方法を見極めよう
体外受精と顕微授精は受精方法が異なる
体外受精と顕微授精は、受精のさせ方に違いがあります。体外受精(IVF)も顕微授精(ICSI)も、卵子と精子を体外に取り出し、受精卵を子宮に戻すという大まかな流れは共通しています。どちらも「体外での受精」という点では同じですが、大きく異なるのが受精の方法です。
体外受精では、培養液の中で精子が自然に卵子に到達し受精するのを待つのに対し、顕微授精では、医師が顕微鏡下で精子を直接卵子に注入します。どちらの方法を選ぶかは、精子の状態やこれまでの治療歴によって判断されるため、適切な選択には医師との相談が重要です。
体外受精(IVF)とは
体外受精(IVF)は、採取した卵子をシャーレに入れ、その中に多くの精子をふりかけて、精子が自力で卵子に到達・受精するのを待つ方法です。自然に近いかたちで受精を促すため、卵子や精子への操作が最小限に抑えられる点が特徴です。
ただし、精子の運動能力や数が不十分な場合には、卵子にたどり着けず受精がうまくいかないこともあります。そのため、受精が成立しなかった場合は、次の周期で顕微授精に切り替えて治療を行うこともあります。
顕微授精(ICSI)とは
顕微授精(ICSI)は、顕微鏡を使って状態の良い精子を1つ選び、細いガラス針で卵子の中に直接注入する方法です。精子の数が少ない場合や運動性が低い場合でも、受精を目指すことができる高度な技術です。
通常の体外受精とは異なり、精子の自然な到達を待たずに人工的に受精を助けるため、たとえ精子が1個しか採取できなかったとしても治療の選択肢となることがあります。ただし、卵子に針を刺す操作が必要なため、体外受精よりも介入度が高くなります。
どちらが向いている?適応の違いを把握
体外受精と顕微授精は、どちらも体外で受精させる不妊治療ですが、適しているケースには違いがあります。ここでは、それぞれの方法がどんなケースに向いているのかを詳しく解説します。
体外受精が適しているケース
体外受精(IVF)は、タイミング法や人工授精を一定期間行っても妊娠に至らない場合や、卵管に癒着・閉塞などがあり、卵子と精子が自然に出会いにくい場合に検討されることが多くなります。また、以下のようなケースでも体外受精が選ばれることがあります。
・精子の数や運動性に大きな問題がなく、自然受精が見込める
・軽度の男性不妊、原因不明の不妊症、子宮内膜症がある
・女性側の免疫反応によって精子や受精が妨げられていない
これらに当てはまる方にとって、体外受精は体への負担を抑えながら妊娠の可能性を高められる治療法のひとつです。
顕微授精が選ばれるケース
顕微授精(ICSI)は、体外受精で受精がうまくいかなかった場合や、採卵できる卵子の数が少ない場合によく選ばれる治療法です。特に、精子の数や運動性に大きな問題があるケースでは、精子を直接卵子に注入できる顕微授精が有効です。そのほか、以下のケースでも選択されます。
・精子の数が極端に少ない、または運動性が著しく低い
・精液検査で精子がほとんど見つからない(無精子症など)
・精子を手術で採取している(TESEなど)
・抗精子抗体が強く出ている
・受精の確率を少しでも高めたいと医師が判断した
近年では、35歳以上の女性で採卵数が限られる場合にも、より確実な受精を目指して顕微授精が選択されることが増えています。なお、体外受精と顕微授精の技術的な差は徐々に縮まってきているものの、精子と卵子が自然に出会いにくい場合には、顕微授精が現実的な選択肢となります。
治療の流れはどちらも基本的に共通
体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)は、受精方法に違いがあるものの、治療の全体の流れは共通しています。卵巣から卵子を採取する「採卵」から始まり、受精後に受精卵を培養し、子宮に戻す「胚移植」までのステップが基本となります。ここでは、具体的な流れについて解説します。
採卵から胚移植までのステップ
主なステップは、以下の通りです。
| 1 | 排卵誘発 | 内服薬や注射で卵巣を刺激し、複数の卵子を育てる | 
| 2 | 卵胞チェック・採卵 | 経腟超音波で卵胞の成長を確認し、細い針で卵胞を穿刺して卵子を採取 | 
| 3 | 採精・精子準備 | 採取した精子を洗浄・濃縮し、受精に適した状態に調整 | 
| 4 | 受精 | 採卵した卵子に対して、体外受精(ふりかけ法)または顕微授精を実施 | 
| 5 | 胚培養 | 受精卵を数日間培養し、状態の良いものを選別 | 
| 6 | 胚移植 | 子宮内に胚を戻す(凍結保存して後日移植する場合もあり) | 
体外受精と顕微授精の違いはあくまで「卵子と精子をどう受精させるか」の部分に限られます。それ以外の治療の流れは、どちらの方法でも基本的に同じです。
費用は顕微授精のほうが高額になりやすい
体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)は、どちらも保険適用の対象ですが、治療内容や回数によって自己負担額には差が生じます。保険適用には年齢や治療回数の制限があり、薬剤の使用量や治療の進め方によっても費用に幅が出ることがあります。
また、医療機関ごとに自費診療の設定金額が異なるため、事前に費用の詳細を確認しておくことが大切です。一般的には、より高度な操作を伴う顕微授精の費用が高くなりやすい傾向があります。
保険適用での費用例(3割負担)
以下の表は、保険診療(3割負担)で体外受精・顕微授精を行った場合の費用シミュレーションです。治療の進み方によって、費用にどれくらいの差が出るかをイメージしやすくまとめています。
| 項目 | シナリオA:採卵数5個 | シナリオB:採卵数12個 | 備考 | 
| 排卵誘発剤 | 約¥20,000 | 約¥20,000 | 刺激法により変動 | 
| 採卵料 | ¥20,400(2~5個の場合) | ¥31,200(10個以上の場合) | 採卵数で変動 | 
| 顕微授精料(ICSI) | ¥17,400(5個全て実施) | ¥35,400(12個全て実施) | 実施数で変動 | 
| 胚培養料 | ¥18,000(例:4個の胚) | ¥31,500(例:10個の胚) | 培養数で変動 | 
| 胚盤胞加算 | ¥6,000(例:3個が胚盤胞に) | ¥9,000(例:8個が胚盤胞に) | 培養数で変動 | 
| 胚移植料(凍結融解胚移植) | ¥36,000 | ¥36,000 | 手技料として固定 | 
| 胚凍結料 | ¥21,000(例:余剰胚2個) | ¥30,600(例:余剰胚7個) | 凍結数で変動 | 
| 概算合計(約) | ¥138,800 | ¥193,700 | 診察料・その他検査費は別途。高額療養費制度の対象。 | 
※注記: 上記は2025年7月時点での主な技術料の目安であり、これに加えて、治療周期中の診察料、超音波検査や血液検査の費用、排卵誘発剤や黄体補充の薬剤費、麻酔費用などが別途必要となります。総額は個々の治療内容によって大きく変動します。
どちらにもある合併症リスク
体外受精(IVF)も顕微授精(ICSI)も、いずれも安全性の高い治療法ですが、採卵時の出血や感染、排卵誘発に伴う卵巣過剰刺激症候群(OHSS)、多胎妊娠のリスクなど、共通して注意すべき合併症があります。ここでは、事前に理解しておくべきリスクについて詳しく解説します。
共通して注意したい症状
代表的なもののひとつが、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)です。排卵誘発によって卵巣が過剰に反応し、腹部の張りや痛み、吐き気、まれに重篤な症状を引き起こすことがあります。また、治療によって妊娠に至った場合でも、異所性妊娠(子宮外妊娠)のリスクがわずかに高まることが知られています。
さらに、採卵の際には卵巣への穿刺を伴うため、出血や感染といったリスクもゼロではありません。治療を受ける際には、これらの可能性について事前にしっかりと理解し、医師と相談しながら進めることが大切です。
治療前に確認したいこと
体外受精や顕微授精は高い妊娠率を期待できる一方で、いくつかのリスクを伴う治療でもあります。安全に進めるためには、事前の確認と計画が重要です。例えば、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高いと判断された場合、病院によっては採卵した周期には胚移植を行わず、次の周期に移植を延期することがあります。これは、誘発後すぐの移植によって妊娠した場合、ホルモンの影響でOHSSの症状が悪化する恐れがあるためです。
治療の進め方や使用する薬剤、胚の凍結や移植数の制限などは医療機関や国のガイドラインによっても異なります。日本では、移植数に関する情報を国に報告する仕組みがあり、安全性と倫理性の両面が重視されています。さらに、体外受精・顕微授精は医療技術としてまだ比較的新しく、確立されてきてはいるものの、予期しない合併症が起こる可能性もゼロではありません。そのため、治療を受ける前にリスクや治療方針、緊急時の対応体制などについてしっかりと医師に確認しておくことが大切です。
受精と顕微授精、自分に合った方法を見極めよう
体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)は、いずれも卵子と精子を体外で受精させる治療法であり、採卵から胚移植までの流れは共通しています。違いがあるのは「受精のさせ方」の部分だけです。体外受精は、精子が自力で卵子に到達し受精する自然に近い方法です。一方で、顕微授精は、1つの精子を卵子に直接注入する操作的なアプローチです。
どちらが適しているかは、精子や卵子の状態、過去の治療歴、年齢、費用、リスクなどによって異なります。自身の状況を客観的に理解し、信頼できる専門医とよく相談したうえで、自分にとって最も納得のいく方法を選ぶことが大切です。
